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「運命の人」

2009. . 08

 連休中から山崎豊子の「運命の人」1・2を読んだ。文春の連載が終わっているのだから、全部書き直すといわれる高村薫とはわけがちがう。3・4もすぐ出るだろう。

 

 いうまでもなく、佐藤政権時の沖縄返還にからむ日本政府と米政府の「密約」について、またそれを暴露し、情報入手方法を権力によってスキャンダルとして逆に追求され訴えられた、毎日新聞の西山太吉記者と、不倫関係を暴かれ、情報漏洩・公務員法違反で有罪となった外務省の蓮見喜久子事務官をモデルに、この小説は書かれている。密約暴露は当時大スクープであった。社会党の横路議員が国会で暴いたが、権力はあくまでもこれを情報漏洩、不倫事件、スキャンダルとして葬り去った。当初、国民の「知る権利」を前面にたてて密約暴露と西山記者を支持したマスコミも、情報が蓮見事務官との関係からもたらされた事が世間に知れるや否や、矛を収めてしまった。

 

 当時の「事件」と報道を鮮明に覚えている僕たちは、登場人物をそのまま現実の彼らと置き換えて読み進むことになる。主役の2人だけでなく、時の佐藤首相、大平、田中、福田、後藤田、社会党の横路、楢崎、あるいはまた、有名な「・・・情を通じ・・」という文章を書いて、事件を政権のスキャンダルから記者と外務省女性事務官のスキャンダルにしてしまった、当時の検事で、現在は民主党にいる佐藤道夫まで、すべてモデルがいるので読んでいて顔が浮かぶ。とにかく面白くは読めるわけだ。そして、なんと今に至るまで日本政府はこの「密約」の存在を認めていない。アメリカ合衆国政府が公式に認め、また当時の日本側外務省の窓口責任者(吉野文六氏)も証言しているにもかかわらずである。

 

 ただし、そうした「置き換え」がなければ、小説のキャラクターとしてのこの主役2人にはまったく魅力が無い。従って小説としてはつまらない。

 およそ物語りの面白さは、何といっても主人公のキャラクターの強烈な魅力と、その主人公にかかる負荷の重さによって決まってくる。ところがこの小説の主人公には魅力のかけらも無い。ただただ横柄で、傍若無人、記者のエリート意識を剥き出しにしているだけだ。そして何とかスクープをものにしたいという執念が、言っている様に「国民のため」などではなく、実は出世欲、権力欲にすぎないのを自分では意識できずにいる。ただの偽善者としてこの「密約」の情報を入手し、実に浅はかなかたちで暴露してしまい、情け無い事にニュースソースも明らかにしてしまう。情報を出す側の女性も平凡で通俗的な、単に「あざとい」だけの女として描かれている。なぜ彼とそれこそ「情を通じ」るに至るかが、その必然性がまったくこの話ではわからない。そうした意味で、ドラマとしてものすごく「浅い」小説である。モデルになった2人が気の毒なくらいだ。

 

 まあ、この種の小説にケチをつけても仕方ない。ノンフィクションのような取材に裏付けられた迫力があるのでとにかく読ませる。「密約」の存在といまだにそんなものは「無かった」といい続ける政府という構図の中で、またあの時代の中で政権によって人生を台無しにされた2人、西山記者と蓮見女史を思い、とにかく最後まで読もう。西山氏本人の岩波新書「沖縄密約」とともに読むのが面白い。

 

 

 

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